「それでね! その時、空からはやぶさがとんできてね!」
「そうそう、ママびっくりしちゃった!」
ばんごはんを食べながらぼくとママは、パパに一生けんめいはやぶさの話をしていた。そんなぼくたちを、はやぶさはイスにすわってニコニコしながら見ていた。
ぼくたちの話を聞きながら、パパはまじまじとはやぶさを見つめていた。
「いやぁ……帰ってきたら家にフレンズがいたのもびっくりしたけど、それがまさか『衛星フレンズ』だったとはね」
「えいせいフレンズ?」
パパの言葉にぼくとママは顔を見合わせたけど、はやぶさはパッと顔を明るくした。
『よくご存知ですね、ショウイチさん』
ショウイチはパパの名前だ。パパは少しわらって、はやぶさに話しかけた。
「これでも、フレンズに関わる仕事をしているエンジニアなんだ。だから、フレンズの新しい企画の話は耳に入ってくるよ。それに、私も幼い頃から宇宙分野が大好きでね。国際宇宙連合のメンバーになりたくて月を目指したこともあったよ」
「あら、その話は初めて聞いたわ。パパは月に行きたかったの?」
「学生の頃だから、マキコと出会う前の話さ。だから、国際宇宙連合のこの企画は気になってはいたよ」
パパの話は少しむずかしいけど、国際宇宙連合はぼくも知ってる。日本のJAXAやアメリカのNASA、民間の宇宙開発をしている会社なんかもいっしょになって、宇宙のことを調べたりしているところだ。月に基地を作っていて、そこで活動している。ぼくは宇宙のことがすきだから、学校の他の子よりも少しぐらいは宇宙にくわしいんだ!(ちなみに、マキコはママの名前)
『お察しの通り、ボクは衛星フレンズです! 国際宇宙連合の日本の部門でつくられました』
「確か、日本の子どもたちの情操教育と、宇宙に興味を持ってもらうため、だったね。これまで打ち上げられて活躍していた人工衛星や探査機などの宇宙機の、知識やAIをフレンズに移植して、子どもたちと触れ合ってもらう。そういう企画だったはずだよ」
『すばらしい! ユキくんのお父様は色んな事をご存知ですね!』
「でしょ! ぼくのじまんのパパなんだ!」
ぼくやはやぶさにほめられて、パパはなんだかてれくさそうにしていた。でも、ぼくは本当にそう思っている。パパは宇宙のことにすごくくわしくて、ぼくにたくさんのことを教えてくれる。はやぶさのことを教えてくれたのはママだけど、ママにはやぶさのことを教えたのはパパだって言っていた。パパは世界で一番すごいと思ってるし、一番かっこいいし、一番だいすき!
「ただ……」
そのパパの声がなんだかちょっと、へんな感じがしてぼくはパパのほうを見た。おこってるのともちがうし、悲しいのともちがう。パパはちょっと、見たことないようなふしぎな顔をしていた。
「……うん。それはまあ、いいや。なんでもないよ」
そういって、パパはニコッとわらった。そしてぼくにするみたいに、はやぶさの頭をぽんぽんとなでた。
「ところで、はやぶさくんは帽子は脱がないのかい?」
パパに言われて、はやぶさは頭の上のぼうしをちょっとさわった。そういえば、パパは家に帰ってくるとぼうしをぬぐけど、はやぶさはずっとそのままだった。
『えっと……この帽子は背中のソーラーパネルと同じで、ボクの一部なので、外れないんですよ』
なんだか、はやぶさもさっきのパパみたいな、ふしぎな顔をしてる気がする。わらっているけど、ちょっとへんな感じがする。
「そうなの? 寝る時大変じゃないかしら?」
『ご心配ありがとうございます。でも、ボクたちフレンズは夜は座ったまま充電させていただくので、寝る必要はないんです』
「あら、そうなの」
『はい』
「それなら、私の仕事場にフレンズ用のチェージチェアが余っていたはずだから、上司に話して借りてきてあげよう。『衛星フレンズ』が我が家に来たと言えば、喜んで貸してくれるさ」
『本当ですか! ありがとうございます! チャージチェアって充電しやすいって聞いたことがあるので、気になっていたんですよね!』
パパの顔はもうすっかり、いつものパパだった。はやぶさももう、へんな顔はしていない。さっきのふしぎな感じはなんだったんだろう? と少しだけ思ったけれど、ぼくは今日からのはやぶさとの生活にワクワクしていて、そのことはもうすっかりわすれていたんだ。
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