書庫

えいせいフレンズ

「みちびき」のとくいわざ

一話

「……でね、その後カズトくんのところにも【えいせいフレンズ】が来たらしいよ」

 ぼくはぼうしをかぶりながら、リビングでママとはやぶさにそんな話をしていた。

 はやぶさが来てからはじめての日曜日。土日は放課後等デイサービスもお休みだ。いつもならパパ、ママとお出かけしたりするんだけど、今日はちがう。きのうデイサービスで、ソウマくんに「近くの公園でいっしょに遊ぼう」ってさそわれたんだ。もちろん、おたがいのフレンズもいっしょに!

『へえ! だれが来たんだろう?』

「【だいち】って言ってた」

「あら! 地球観測衛星の子かしら?」

『【だいち】ならそうですね! マキコさん、よくご存知ですね!』

「ふふん、伊達にショウイチさんの妻をやってるわけじゃないのよ」

 ママはうでぐみして、じまんするようにわらった。

「歴代のだいちはみんな、とっても頑張り屋さんなんだけど、ママはいちばん最初のだいちが好きだわね。運用限界ギリギリだったのに、東日本大震災の時にたくさんお仕事を頑張ってくれたの。その後すぐ、全機能が停止しちゃって運用終了になっちゃったんだけど……その頑張りをたたえて、海上保安庁がラストメッセージを送ったのよね」

「そうなの? だいちもすごいんだね」

 パパはたくさん色んなことを知っている。でも最近思うのは、ママも以外と物知りなんだ。でも、パパとちょっとちがうのは、色んなことを知ってるわけじゃなくて自分の好きなものだけくわしいってところかな。ちょっとオタクっぽいのかも。

「じゃあ、カズトくん喜んでるでしょ? ずっとフレンズを欲しがっていたものね、あの子」

「うん、デイサービスに行くと、ずっとその話ばっかりだよ」

『ははは。喜んでもらえてるなら、同じ【衛星フレンズ】としてボクも嬉しいよ!』

 はやぶさがそう言ったのを聞いて、なんとなくぼくははやぶさをぎゅっと抱きしめた。

『わわっ……どうしたんだい? ユキくん』

「ぼくも! ぼくも、はやぶさがうちに来てくれて嬉しいよ!」

『そ、そうなの?』

「ぼく、昔からはやぶさのことが大好きだったんだ! 大気圏で燃え尽きちゃったって知って、すごく悲しかった……だから、こうしてはやぶさに会えてすごく嬉しいんだ!」

『……そっか』

 はやぶさのその声が少し悲しそうで、ぼくは少し顔を離してはやぶさの顔をのぞき込んだ。まただ。顔は笑っているんだけど、どこか悲しそうな目をしている。はやぶさはぼくの頭をぽんぽんと軽くたたいた。

『ありがとう。ボクも……君に会えてうれしいよ!』

 そう言って笑うはやぶさの顔は、もういつものはやぶさだった。ぼくがもっと何か言おうとした時、ママが声をかけた。

「あ、ユキ。ちょっと待ちなさい。出かけるなら、これを持っていくのよ」

 ママはそう言って、白い小さな機械とお守り袋を差し出した。

『それは?』

「これ? GPSのたんまつってやつと、お守りだよ」

「GPS端末はいつも持たせているの。流石にそろそろ遊びに行くのにまで私が付いていくわけにもいかないし、でも何かあったら心配だしね」

『ええ、GPS端末はわかるんですが……お守りは初めて見たので』

「あら、そうだったの? このお守りはね、ちょっと珍しいのよ。中に隕石が入っているの!」

「前、ママと行った天文台で買ってもらったんだ。ぼくの大事なものだよ!」

『へえ! すてきなお守りだね!』

 その時、げんかんのチャイムがなった。インターホンのスイッチを押すと、ソウマくんがモニターに写っていた。

『ユキくん、むかえに来たよー!』

 モニター越しのソウマくんの声を聞いて、ぼくはあわててげんかんに向かった。

「行こう、はやぶさ!」

『うん!』

 「いってらっしゃい!」と言いながら手をふるママを横目に、ぼくとはやぶさはくつをはいて、急いでげんかんの外へ飛び出した。今日がいい天気で、本当に良かった!

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