書庫

えいせいフレンズ

「はやぶさ」との出会い

三話

「ええ〜、ずっりぃ! ユキんちにフレンズがきたのかよ〜!」

 ぼくたちは学校が終わると放課後等デイサービスで過ごす。ぼくみたいに発達特性を持つ子どもたちが集まる場所だ。夏休みの今は、朝から迎えに来てくれて夕方まで過ごすことになる。ぼくは帰るじゅんびをしながら、昨日のことをカズトくんに話していた。

「しかも【えいせいフレンズ】だよ!!」

「いや、その【えいせいフレンズ】ってのが何かはわかんないけど、つまりはフレンズなんだろ?」

「ただのフレンズじゃないよ! ぼくんちに来たのは小惑星探査機はやぶさのフレンズで……!」

「ショウワクセイタンサキ?」

『おっ、ユキくんはずいぶん古い宇宙機のことを知っているんだね』

 そう言って声をかけてきたのは、ついこないだスタッフさんのお手伝いとして入ったフレンズだった。

「ナナ! はやぶさのことを知ってるの?」

『知ってるよ。小惑星探査機はやぶさ。昔の宇宙科学研究所が打ち上げたMUSESシリーズの三つ目で、正しくは工学実験機だったよね。2003年に打ち上げられて、数々のトラブルに見舞われながらも2010年に地球に戻ってきた。そうでしょ?』

「トラブル?」

 カズトくんは少しはやぶさに興味を持ったみたいだ。ぼくは終わらせた宿題のプリントをリュックの中に戻しながら、ナナの話を聞いた。本当はぼくがはやぶさの話をしたいけど、きっとぼくよりもナナのほうが上手に説明できると思ったからだ。

『大変だったらしいよ。小惑星への着地に失敗してしまったり、二回目は着地したけど、小惑星の岩石を採取するための弾丸が発射されてなかったり。その後は通信が途絶えてしまうし、やっと通信が回復してなんとか戻ってこようとしたんだけど、途中でエンジンが動かなくなってしまったりね』

「ひえ〜、よくそれで戻ってこれたなぁ」

『その頃の技術者の人たちがめちゃくちゃがんばったんだろうね。今は宇宙港の建設も始まっているけど、当時はそういったものもなかったから、戻ってきたとは言っても大気圏に突入して、はやぶさは燃え尽きちゃったわけだけど』

 いっしゅん、ぼくのむねがチクッとした。そう、はやぶさは燃え尽きてしまったのだ。ママに古い動画を見せてもらったことがある。火の鳥みたいにパァっと光って、少し前のほうを流れていくリエントリカプセルを見守るように消えていってしまった。初めてあ

の動画を見た時、ぼくはわんわん泣いてしまったし、ママも涙ぐんでいた。

『まあでも、はやぶさがたくさんのトラブルに合いながらもがんばったから、その後の【はやぶさ2】や【MMX】につながるわけだけどね! はやぶさのことは同じ機械の私としても、ほこらしい存在だよ!』

「そっかぁ、じゃあユキんちに来た【えいせいフレンズ】ってすげえやつなんだな」

「何? 【えいせいフレンズ】の話?」

 ぼくたちが話していると、ソウマくんが声をかけてきた。ソウマくんはぼくとおうちが近くて、学校も同じだ。

「ソウマくん、【えいせいフレンズ】を知ってるの?」

「知ってるも何も、ぼくんちにもいるよ」

 ソウマくんの言葉に、ぼくとカズトくんはいっしゅん顔を見合わせた。

「え、ええええ〜!?」

「いいなぁ、いいなぁ! ユキもソウマも、ずっりぃ!」

 カズトくんはめちゃくちゃうらやましがっているし、ぼくはすごくびっくりした。そうか、えいせいフレンズが来たのって、ぼくのところだけじゃなかったんだ。

「ソウマくんちにきた【えいせいフレンズ】って、なんの……」

『あ、ソウマくん。お迎えが来たみたいだよ』

 ぼくが声をかけようとした時、ナナが窓の外を見てそう言った。思わずぼくも窓の外を見た。何か、人のような形をしたものが光りながら空から降りて来るところだった。

「みちびき!」

 そう言って、ソウマくんはリュックを抱えて外に飛び出して行った。ぼくとカズトくんも、思わずソウマくんの後を追って外に出た。

 そこには、白いベレー帽をかぶった黒いワンピースの女の子がいた。いや、フレンズだ。背中にははやぶさとはまた違う形のソーラーパネルがついている。

『ソウマくん。迎えに来ましたよ』

「うん。あ、これがうちに来た【えいせいフレンズ】だよ。名前は【みちびき】って言うんだって」

『お友達ですか?』

「そう。こっちがユキくんで、こっちがカズトくん」

『まぁ、そうだったのですね! お初にお目にかかります。私、準天頂衛星のみちびきと申します!』

「じゅんてんちょうえいせい……」

 聞いたことがある。確か、GPSなんかに使用されている衛星だったはずだ。

 みちびきはポカンとしてるぼくらを見てニコリと笑うと、ソウマくんをひょいとかかえこんだ。そして、地面を軽くけると、そのままフワリと浮かび上がった。

「おおお……!」

 カズトくんがびっくりしたような、感動してるような声を出した。

「じゃあ、また明日ねー!」

 ソウマくんはそう言うと、みちびきに抱えられて空を飛んで行ってしまった。

 「いいなぁ、ソウマのやつ!」とくやしがるカズトくんを横目で見つつ、ぼくも今度あれをはやぶさにお願いしてみようと心に決めていた!

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