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えいせいフレンズ

「みちびき」のとくいわざ

二話

 まわりを木でかこまれた公園は、歩いてきた道路よりも少しだけすずしかった。ソウマくんがかくれんぼをしようと言ったので、ぼくたちはかくれんぼをすることにした。

「じゃあ、じゃんけんでオニを決めよう。あ、はやぶさはじゃんけんわかる?」

 ぼくの言葉に、はやぶさはちょっとじまんするような顔をして答えた。

『ふふん、ボクたちフレンズは色んな情報じょうほうを入力されているんだよ。じゃんけんぐらいわかるさ!』

 そんなはやぶさのようすを見て、みちびきが少しわらった。

衛星えいせいとして宇宙うちゅうにいたときは知りませんでしたけど、フレンズになったときに人とふれ合うための基本的きほんてき情報じょうほうは入れてもらいましたので、じゃんけんもかくれんぼもぞんじ上げておりますわ』
「そうなんだ。じゃあだいじょうぶだね!」
「いっくよー!じゃん、けん、ぽん!」

 ソウマくんのかけ声でじゃんけんをしたけっか、負けたのはグーを出したはやぶさだった。

『ええぇ、いきなりボクがオニ?』

 はやぶさが自分の出したグーを見ながら、ふまんそうに言った。

「あ! はやぶさとみちびきは空をとぶのナシね!」
『あら、ダメなんですか?』
「空からさがしたらすぐ見つかっちゃうじゃん! にげろーー!!」

 ぼくの声を合図に、みんないろんな場所にちらばっていった。

「さてと、どこにかくれようかな?」

 遠くではやぶさが数を数える声を聞きながら、ぼくは公園のしげみにそって歩いた。この公園は、しげみのうらに細いじゃり道がある。ぼくはしげみのすき間からそのじゃり道のほうに行って、かくれられそうなところをさがした。
 ちょっと向こうのほうに、よさそうなブロックべいのかげを見つけた。かけよってみたけど、そこはダンゴムシがいっぱいいて、ぼくはびっくりしてはなれてしまった。そこからまた、まわりを見回してみる。すると、もうちょっと向こうに、かくれられそうな大きい木を見つけた。うん、あそこならよさそうだ。

 そして、ぼくは見つかりづらそうな場所を見つけたうれしさで、はやぶさの「もういいかい?」が聞こえないほど遠くに来ていたことに気づいていなかったんだ。

 ぼくは待った。はじめのうちは、木の根元に生える草を見て、たしかママが「これはクローバーっていうんだよ」って教えてくれたのを思い出したり、四つ葉のクローバーをさがしてみたりしていた。それにもあきてきたころ、なんとなく空を見上げた。たまたま出てきた月を見つけて、はやぶさやみちびきはあそこから来たことを思い出した。
 ふと、ぼくはまわりを見回した。ぼくがかくれていたのは木の根元だったはずなのに、あの木はどこにいってしまったのだろう? どうやらぼくは、クローバーをさがしながら少しずつ動いてしまっていたようだった。
 そして、そこでぼくはやっと気づいたんだ。ぼくが公園からはなれた、少し遠いところまで来てしまっていたことに。

「はやぶさ……?」

 声をかけてみたけど、返事は返ってこない。風がふいてざわざわとゆれる木の葉の音が、さっきよりも大きくなったように聞こえた。まわりを見ても、みんながどこにいるのかわからない。いつも来ないような場所にいるってことも、今ようやく気がついた。
 ぼくは急にふあんになって、みんなの名前を大声でよんだ。

「ソウマくーん!」

 ソウマくんからの返事はない。ぼくはむねがぎゅっとしめつけられるような感じがした。

「はやぶさー!」

 はやぶさの声も聞こえない。なみだが出てきた。

「みちびきー!!」
『はい、およびですか?』

 すぐ後ろからみちびきの声がして、ぼくはものすごくびっくりした。
 後ろをふり向くと、みちびきがにっこりとわらって立っていた。そのみちびきの後ろのほうから、あわてたような顔をしたソウマくんとはやぶさがこちらに走ってきているのが見えた。
 ぼくはすごくホッとして、思わずすわりこんでしまった。そんなぼくを、はやぶさがあわててささえてくれた。

「ユキくん! こんなところにいたの!?」
『公園からこんなにはなれてるじゃないか! 見つからなくて心配したんだよ!!』
「みんな……どうして?」

 みんなに会えてホッとしたけど、ぼくはとてもふしぎだった。なんでぼくのいる場所がわかったんだろう?
 すると、みちびきがちょっととくいそうな顔をして言った。

「わたくしは準天頂衛星じゅんてんちょうえいせいみちびきですよ? GPS端末たんまつさえ持っていただけているなら、それを見つけるなんてお手のものです!」

 みちびきの言葉を聞いて、ぼくはママからGPSたんまつを持たされていたことを思い出した。あわててポケットの中に手を入れ、中身を取り出す。ぼくの手の中には、白くてしかくいGPSたんまつと、お守りがあった。

『ユキさんのお母さまの愛情あいじょうですわね』

 ぼくのかたに手をかけたみちびきの言葉に、ポロリとなみだがこぼれた。ぼくはGPSたんまつとお守りをにぎりしめて、みんなの前でなき出してしまった。
 どのぐらいないていただろう。はやぶさがオロオロしながらぼくをささえているのを横目に、みちびきがポツリとつぶやいた。

『……ところでわたくし、みなさまにあやまらなければなりませんの』

 みちびきがそう言うので、みんながみちびきの方を見た。ぼくもなきじゃくりながら、みちびきが何を言おうとしてるのか気になってみちびきを見上げた。
 みちびきは、みんなから注目されて少しびっくりしたようだったけど、少し言いづらそうに口を開いた。

『わたくし、ユキさんをさがすために空をとんでしまいましたわ。ズルをしてしまいました』

 そう言ってみちびきがニコッとわらったので、なんだかぼくもつられてわらってしまったのだった。

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