書庫

えいせいフレンズ

海と「だいち」と「ひまわり」

一話

「うっ……みィーーーー!!」

 思わずぼくはそうさけんで走り出しそうになったけど、後ろにいたパパにうでをつかまれていて、ただ足をすなにとられただけになってしまった。

「こら、ユキ! 興奮こうふんするのはわかるけど、すぐに走り出すんじゃない! まず、他のみんなのところに行って人数をチェックしてからって言われただろう!?」

 そう、今日ぼくたちは海に来ている。ぼくの通っている放課後等ほうかごとうデイサービスで、家族やフレンズもいっしょにみんなで海で遊ぶことになって、ぼくはこの日を楽しみにしてたんだ。

『うわぁ……海って、下から見るとこうなっているんだね!』
「はやぶさは海ははじめて?」
宇宙うちゅうから地球を見た時に、あの青い部分が海なんだって知ってはいたんだけど、こんなに間近で見るのははじめてだよ!』
「そうなんだ! ぼくはパパやママに何度かつれてきてもらったことがあるよ!」
『すごいねぇ、こんなに波の音が大きく聞こえるんだね……!』

 そう言うとはやぶさは目をつむって、まるで波の音に聞き入るようにしていた。
 ぼくがはやぶさに声をかけようとすると、フレンズがもう一人こちらに近づいてきてぼくに声をかけた。

『ユキどの。あちらでデイサービスのかたがよんでおられたぞ。カズトどのももう向こうに向かわれた』
「あっ、そうだった!」

 この、おさむらいさんみたいな話し方のフレンズは、カズトくんのところに来た地球観測衛星ちきゅうかんそくえいせいのだいちだ。着物とはかまみたいな服を着て、こしに刀のような、トゲトゲしたアンテナをかかえている。
 ぼくはだいちが指さしたほうを見た。もうみんなが集まって、ぼくのほうを見て手をふったり声をかけている。

「ぼく、先にあっちであいさつしてくるね! はやぶさ、だいち、また後でね!」

 そう言いながら、ぼくは二人に手をふった。そして、みんなの方に向かって急いで走り出した。

*****

 ユキくんを見送ると、波の音にまぎれてだいちの小さいため息が聞こえた。

『やれやれ。カズトどのもさわがしいお人だが、ユキどのもせわしないお方だ』

 そう言って、だいちはボクのとなりにすわった。そして、ボクを見上げて目くばせするので、ボクもにがわらいしてだいちのとなりにすわった。

『こうして話すのははじめてになるか。あらためてごあいさつ申し上げる、はやぶさどの』
『うん、そうだね。はじめまして、だいち……ええと、きみは4号かな?』

 ボクがそう言うと、だいちはおどろいたような顔でボクを見た。

『よく、お気づきに』
こしのアンテナ、SPAISE3アンテナだろう?』
『いかにも。しかし、はやぶさどのは拙者せっしゃが打ち上がる前に……』

 そう言って、だいちはボクをじっと見た。

『なるほど、そういうことでござるか』
『……さすがに、衛星えいせいフレンズ仲間なかまはだませないかぁ』

 ボクはにがわらいしながら、帽子ぼうしをかぶりなおした。そしてしばらく二人で、ユキくんたちのほうに注意をはらいつつ、波の音に耳をすませていた。どうやら点呼てんこは終わったみたいで、ユキくんたちはうれしそうな声を上げながら波打ちぎわまで行って遊び始めていた。近くで見守りたいのはやまやまだけど、いくら防水ぼうすいのフレンズでも海水はさすがに体によくない。他のフレンズたちも、ボクたちの近くで子どもたちを見守っていた。

『……いかにも拙者せっしゃは、だいちシリーズの四機目よんきめ。しかし、同じシリーズの兄たちの記憶きおくも、拙者せっしゃの中にのこっている』
『うん……』
『一番目の兄は、東日本大震災ひがしにほんだいしんさいの時にその力をくした。その時すでに兄は、衛星えいせいとしてたえられる年数をこえていたにもかかわらず、だ。そして、まるで力きたように地球と連絡れんらくできなくなってしまった。だが、国をゆるがす大災害だいさいがいの時に力をくせたことは、我々だいちシリーズのほこりであると拙者せっしゃは思っている』
『うん……そうだね。ボクたちののぞみは、ヒトの役に立てることだから。だからボクは……』

 ふと、波打ちぎわで遊んでいたユキくんが、こちらをふり返って大きく手をふった。ボクが笑って手をふり返すと、ユキくんは走ってこちらに向かってきた。

「は、や、ぶ、さーーーー!!」
『なんだーい、ユキくん!』
「スイカわりするってさ! いっしょにやろうよ!」

 無邪気むじゃきなユキくんのさそいに、ボクとだいちは顔を見合わせてわらった。

『ゆこうか』
『うん、そうしよう』

 そう。だから、他ならぬボクが今ここにいるんだ。

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