やっともどってきたはやぶさがママの車に乗りこむとすぐに、外からかみなりの音が聞こえてきた。その直後に大つぶの雨がふってきて、ひまわりの言ったとおりになった。
「あんなに天気がよかったのに……はやぶさくんが教えてくれて助かったわ」
『いえ、たまたまあそこにいあわせていた気象観測衛星のひまわりが教えてくれたからです。ボクもさすがに雨にぬれたらこわれてしまうので、彼女のおかげで助かりました』
そう言って、後部座席のぼくのとなりにすわったはやぶさは、ふうとひと息ついてせもたれにもたれかかった。
「デイサービスから連絡が来ているわ。この天気はもうしばらく続くみたいだから、今日はこれで解散ですって。残念だったわね……」
ママがスマホを見ながらそう言った。ぼくはもう少し遊びたかったけど、雨はどんどんひどくなってきてぼくたちが乗ってる車の中にもすごい雨音がひびいている。さすがにぼくもこの雨の中で遊ぶ気にはならない。
すこしガッカリしながら、持ってきたバックの中に手を入れた。水着から服に着がえようとしてバックの中を見たその時、ぼくはある事に気がついてしまった。
「あれ……あれ?」
「どうしたんだい? ユキ」
パパに声をかけられたけど、ぼくはあせってそれどころじゃなくて、バックの中身を全部車の中にぶちまけてしまった。ない、アレが見当たらない!
あせるぼくの手を、はやぶさがにぎってくれた。
『ユキくん、落ち着いて。一回深呼吸しよう』
はやぶさがぼくを見つめてそう言った。ぼくははやぶさに手をにぎっててもらったまま、言われたとおりにすってはいてを何回かくりかえした。
「ないんだ……GPSのたんまつと、大事なお守りが……!」
「なんだって!?」
パパの大きな声にぼくはいっしゅんビクッとした。ママがパパに「ちょっと……!」と声をかけると、パパが目をつぶってため息をついた。
「ちょっと待って。位置情報を確認するわ……GPSは海岸で反応しているわね。さっきスイカを食べてたところかしら」
「お守りとGPSは一緒につけていたのかい?」
「ええ、わかりやすいかと思って一緒につけていたの」
パパとママが二人で話している間、なぜかはやぶさは少しも動かなかった。なんだか目の色が少し暗くなっている。フレンズがスリープしている時の反応だけど、ぼくにははやぶさが何か考えているように見えた。ぼくがふあんになってはやぶさに声をかけようとしたその時、急にはやぶさの目の色が元にもどって、ぼくたちのほうをはっきりと見つめた。
『ショウイチさん。マキコさん』
はやぶさに名前をよばれて、パパとママがはやぶさの方をふり返る。はやぶさはすごく真面目な、でも少しこわい顔で話をつづけた。
『みちびきと今オンライン通話で話をつけました。このままみちびきに位置情報を教えてもらいながら、ボクが探しに行きます』
「そんな! ダメだよ! はやぶさはきかいなんだから、水にぬれたらこわれちゃうよ!」
『だからみちびきにサポートをおねがいしたんだ。彼女の位置情報はすごく正確だから、すぐに見つけ出せる。フレンズの体の防水機能なら雨の中でも5分ぐらいはだいじょうぶだったはず』
「だとしても危険だ! GPSの端末なんてまた契約し直せばいいんだし、お守りだって……!」
『いえ、あのお守りはマキコさんがユキくんのために作った世界でたったひとつのものです』
「ダメよ、無茶しないで! 隕石は天文台に行けば売ってるし、お守りは……!」
「お守りは大事だけど……! でも、ダメだよはやぶさ!」
ぼくたちはひっしではやぶさを止めた。今ここで止めなければ、はやぶさは外に出てしまう。そうしたら、はやぶさは……!
すると、はやぶさはぼくの手をにぎり直して、すごくうれしそうなえがおでぼくにニコッとわらった。
『だいじょうぶ! ボク、小さなものを取ってもどってくるのとくいなんだ。だって……【はやぶさ】だからね!
ターゲットマーカーを追いかけるのも、弾丸を打つのも、サンプルを確保するのもお手のもの。だからユキくんのお守りぐらい、すぐに見つけ出してみせるさ!』
そう言うと、はやぶさは車のドアを開けて、すぐに外にとび出していってしまった。はやぶさがドアを開けたそのいっしゅんで、つめたい雨がふきこんできて、ぼくの顔にまで水がかかった。座席もビチャビチャだ。
「はやぶさ!!」
まどは雨が打ちつけられて外がよく見えない。でも、遠くで何かが光るのが見えた。きっとはやぶさのせなかのイオンエンジンが光って空をとんだんだ。そのままその光は、雨の中海岸の方へとんでいってしまった。
「はやぶさーー!!」
シェアして下さると心の励みになります
Tweet