書庫

えいせいフレンズ

本当のボク

一話

 ぼくはしんしつからリビングにおりてきて、いつもパパがやっているようにまどのカーテンを開けた。きのうあんなにはげしくふった雨は、今朝はうそのように止んで、いつもの光がまどからやわらかくさしこんでいた。
 テーブルの上には、あの後びしょぬれになったはやぶさが大事ににぎりしめて持ってきたお守りとGPSたんまつがあった。まわりについてたすなは落としたけど、さわるとまだちょっとチャリチャリしている気がする。
 お守りをさわると、またちょっと気持ちがこみ上げてきて、目があつくなるのがわかった。

「はやぶさ……」

 その時、げんかんが開く音がした。パパの足音だ。ぼくはあわててリビングのドアを開けてげんかんに向かう。仕事の作業着を着たパパが、ぼくを見てぽんぽんと頭をなでた。

「おはよう、ユキ」
「パパ、はやぶさは!? はやぶさはどうなったの!?」
「なんとか大丈夫だいじょうぶだと思うんだけどな。とりあえずれたところは全部念入ねんいりに手当てしたし、細かい部品まであらためて防水処理ぼうすいしょりをしておいたよ。はやぶさくんのボディの部品が、うちの会社で使っている部品とほぼ同じもので助かった」

 パパの言葉を聞いて、ぼくは急いでパパのガレージに向かおうとした。だけど、パパにさえぎられてぼくはげんかんを出ることができなかった。

「パパ!」
「気持ちはわかるけど、今は待ってくれ。はやぶさも気持ちを整理したいみたいだ。それに、パパもつかれたよ……夜通し作業してたからね。ちょっと休ませてくれないか?」

 そう言われてしまうと、ぼくもガレージに行く気にはなれなかった。パパがしんしつに向かうのを見送って、ぼくはリビングにもどった。その時ようやくママの作る朝ごはんのにおいに気づいたほど、ぼくの頭ははやぶさのことでいっぱいだったんだ。

*****

『本当に……すみませんでした……』

 やっとガレージからもどってきたはやぶさは、ぼくの向かいがわにすわって本当にもうしわけなさそうに頭を下げていた。

「うん。君は本当に優秀ゆうしゅう探査機たんさきだったんだろうね。見事にユキのお守りを見つけ出してきてくれた。そこはとても感謝かんしゃしているよ、本当にありがとう。……ただ、自分の体に合わない無茶むちゃをしたことはわかっているね?」
『はい……』
「短い期間とはいえ、わたしたちは一緒いっしょらしていたんだ。わたしたちにとって君は、もう家族のようなものなんだよ。その家族に、あんな無茶むちゃはしてほしくなかった。たとえ君がフレンズだとしても……たとえ、君が本当に、数多あまた困難こんなんを乗りこえた【はやぶさ】であったとしてもだ」

 なみだ目になりながらパパの話を聞いていたぼくだったけど、その言葉にふと、パパの言葉を見上げた。

「ほんとうに……って? どういうこと?」

 パパはぼくの顔をじっと見て、ひとこきゅうおいたあと、小さくため息をついた。そして、またはやぶさのほうを向いて話し始めた。

「マキコがはやぶさの後継機こうけいきや【あかつき】【イカロス】の話をした時も様子がおかしかったし、その前からもわたし疑問ぎもんに思っていたんだ。なぜ、大気圏たいきけん突入とつにゅうしてえつきたはずの【はやぶさ】がフレンズになることができたんだろうかと。そして、君は海でこう言ったね。『弾丸を打つのも』と。よく考えるとあれはおかしいんだ。初代しょだいのはやぶさは一度だって弾丸を出していないんだからね」
『!!』
「あっ……!!」

 パパにそう言われて、はやぶさはいっしゅん言葉につまったような顔をした。そして、ぼくも思い出した。そうだ、初代しょだいのはやぶさはサンプルを取るための弾丸だんがんは出せなかったんだ。たしか、弾丸だんがんを出すことができたのは……

「君をメンテナンスして確信かくしんしたよ。君は……【はやぶさ2】だね?」

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