書庫

えいせいフレンズ

本当のボク

二話

 すごく長い時間、だれも何も話さなかったような気がした。だけど、その間もぼくの頭の中はぐるぐると回っていた。
 そう、ちゃんと弾丸だんがんを打ちこんでサンプルをたくさん取ることができたのは、イトカワに行った【はやぶさ】じゃなくて、リュウグウに行って地球にカプセルを持ってきた上、その後拡張かくちょうミッションとしてべつな小惑星しょうわくせいにも向かった【はやぶさ2】のほうだ。
 じゃあ、ここにいるはやぶさは、【はやぶさ】じゃなくて、実は【はやぶさ2】だったってこと? だけど、どうして?

 ぼくがこんらんしていると、はやぶさはすごく気まずそうに、自分の頭に乗っているぼうしに手をかけた。はやぶさが「体の一部」だと言っていたぼうしは、はやぶさが手に取るとするりと頭からはなれていった。
 そして、そのはやぶさの頭には、小さくかみかざりのようにふたつの丸いアンテナがくっついていたのだ。それは、【はやぶさ】についていたようなおわんがたのパラボラアンテナじゃなくて、【はやぶさ2】と同じ平べったい形のハイゲインアンテナだった。

『……おっしゃる通りです。ボクは、初代しょだいの【はやぶさ】ではなくて、リュウグウに行った【はやぶさ2】です』

 ぼくは、はやぶさの……いや、はやぶさ2の言葉に、なんてこたえたらいいのかわからなかった。それでも、何かぼくが言わなければいけないような気がした。

「なんで……ウソ、を、ついたの?」

 出てきたのは、そんな言葉だった。自分で言った言葉だったけど、「ウソ」と言った時に、まるでこれまで彼といっしょにいた時間が全部ウソだったみたいに感じて、ぼくはむねがギュウッとしめつけられたように感じた。
 はやぶさは……はやぶさ2は、ぼくの言葉になきそうな顔をした。フレンズになく機能きのうがないのは知ってる。でも、本当になきそうな顔だったんだ。

『ボクは……うらやましかったんだ。【はやぶさ】の、兄さんの人気が。【小惑星探査機しょうわくせいたんさき】のことを知っている人の中でも、ボクと兄さんのちがいさえわからない人もいる。ボクは兄さんとは比較ひかくにならないぐらい、すごい成果せいかを上げたんだよ? だけど……みんなの印象いんしょうのこっているのは、ボロボロになっても、どんな困難こんなんにおちいっても、地球にもどってきた兄さんの事なんだ!』

 はやぶさ2は、まるで今までのかれらしくない声で、たくさん気持ちを打ち明けた。その声は、ぼくにもわかるぐらい、すごくすごくつらそうだった。
 すると、ずっと話を聞いていたママが、ぼくのお守りを手に取ってじっと見つめた。そして、ひざの上でぎゅっとにぎりしめていたはやぶさ2の手を取ると、そのお守りをはやぶさ2の手ににぎらせた。

「ねえ……本当にそれだけだったのかしら? あなたが本当にお兄さんの名前をりたのは、うらやましさだけだった?」

 ママの言葉に、はやぶさ2はうつむいていた顔を上げてママのほうを見た。

「はやぶさ……2、くん。このお守りに使ってるぬのはね、ユキのおばあちゃんの着ていた着物のぬのなの。病気でもうくなっているんだけど……だから、私にとっても、ユキにとっても、とても大切なものなのよ。だから、あなたがさがしてきてくれて本当にうれしかった。わたしはね、そんなやさしい心を持つあなたが、そんな気持ちだけでお兄さんの名前をりたと思えないの」

 はやぶさ2は、手の中のぼくのお守りをぎゅっとにぎりしめた。うすむらさき色のお守りのぬのがおばあちゃんの着物のぬのだってことは聞いたことがあった。ぼくがまだ赤ちゃんだったころにおばあちゃんはくなってしまったので、ぼくは写真でしかおばあちゃんを見たことがない。おばあちゃんはパパのお母さんだけど、ママにとっても大事な人だったのだと聞いた。

『ボク……ボクは……』
「うん、なあに?」
宇宙うちゅうから、地球を見た時……すごくステキな星だなって、思ったんです。だから、フレンズになって地球に行けるって知った時、すごくうれしくて……』
「うん……」
『でも、その時、大気圏たいきけんえつきてしまった兄さんのことを思い出したんです。兄さんは、リエントリカプセルしか地球にもどることができなかった……だから、だからボク……兄さんといっしょに、地球に行きたくて……』
「うん、そうね。あなたはやさしい子だものね」

 ママは、はやぶさ2をぎゅっとだきしめた。ママのなみだがはやぶさ2の頭に落ちて、ぼくは場ちがいにも「またはやぶさ2がぬれちゃう」って思ったんだけど、ちゃんとパパがティッシュでママのなみだとはやぶさ2の頭をふいてくれた。

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