書庫

えいせいフレンズ

本当のボク

三話

「はやぶさ2……あの、ね」

 ぼくが口を開いたら、パパもママもはやぶさ2も、みんなこっちを見たのでぼくは少しはずかしくなった。だから少しうろたえてしまったけど、ぼくはゆうきを出して言葉をつづけた。

「ぼく、発達はったつしょうがいなんだ」
『……えっ? うん……』

 はやぶさ2はちょっとポカンとしてた。ぼくが言いたいことを頭の中で整理してると、ママがさっしてせつめいしてくれた。

「ASD……自閉じへいスペクトラム症の特性とくせいがあるの。ショウイチさんもそうなんだけど……だから放課後ほうかご等デイサービスに通っているし、学校では情緒支援級じょうちょしえんきゅうに通っているわ」
「だからぼく、他のふつうの子よりはできないことや、むずかしいことがいっぱいあるよ。でも、パパとママは、そんなぼくでいいって……ぼくは、ぼくのままでいいって言ってくれるよ」
『うん……でも、なんでそれをボクに教えてくれたの?』
「だって、フェアじゃないよ。はやぶさ2は今、言いづらいけど大事なことを教えてくれたじゃないか。そしたらぼくも、はやぶさ2に言ってないぼくのひみつを教えたほうがいいと思ったんだ」

 ぼくはそう言うとはやぶさ2のそばに行って、ママの反対がわからはやぶさ2をぎゅっとだきしめた。顔をはやぶさ2におしつけているから、かれがどんな顔をしてるのかわからない。でもなんとなく、ふるえているような気がした。気がしただけだけど。

『ボクを……ゆるしてくれるの?』
「ゆるすっていうか……君が【はやぶさ】でも【はやぶさ2】でも、ぼくの友だちであることにかわりないじゃない。君がお守りをさがしてきてくれたんじゃないか」

 はやぶさ2は、しばらくだまっていたけど、ぼくにだけ聞こえる声で「ありがとう」って言ったのがわかった。だからぼくは、なんだかもう、それでいいと思ったんだ。

「……やれやれ、ユキに先に言われてしまったな。『君は、君のままでいい』って」

 パパの言葉で、なんとなくぼくとママははやぶさ2からはなれた。パパは手元のスマホをそうさして、何かをはやぶさ2に見せた。

『あっ……これ……』
わたしも、小さいころから君のファンだったんだよ。わたし初代しょだいのはやぶさが帰還きかんした後にまれているからね、ずっと追いかけていたのは君のことだ。
 ある誕生日たんじょうびの前の日に、わたしの母……くなったユキのおばあちゃんが、わたし誕生日たんじょうびケーキに乗せるチョコプレートを作ってSNSにせたんだ。君のチョコプレートだよ。そしたら、なんと君本人から返事をもらえてね。わたしはとてもうれしかったのをおぼえているよ」

 ぼくもパパのスマホをのぞきこんだ。そこには、はやぶさ2のチョコプレートがのったSNSのスクリーンショットが写っていた。がしつがすごく悪くて、ずっと昔のがぞうだってことがわかる。

「今考えれば、君じゃなくて、君を運用していた広報担当こうほうたんとうの人からの返信へんしんなんだろうけど……」
『いいえ……おぼえていますよ。これ、ボクが返信へんしんしたんです』
「……えっ?」

 パパがへんな声を出したので、思わずぼくはパパの顔を見上げた。いつもは見ないような、すごくおどろいた顔をしていた。パパって、こんな顔するんだ。

『おばあさんの投稿とうこうから、息子さんを……ショウイチさん、あなたのことをすごく大事にしているのがつたわってきました。どんな子どもなんだろうって思っていたんです……大きくなりましたね!』
「じゃあ……君が、【はや2くん】……だったのか……」
『はい! よかった、やっと君に本当のことを言えた……!』

 ぼくは、パパとはやぶさ2が何の話をしているのかよくわからなかった。でも、二人の間にずっとずっと前からの何かがあったことだけはわかった。そして、はやぶさ2はぼくのほうに向き直ってこう言った。

『だからボク……最初さいしょに言ったよね? 君に会いたかったんだって。
 あの時の子どもが大きくなって、今はさらにその子どものユキくんがいて……ボク、本当に、君たちに会いたかったんだ……!』

 気がつくと、ぼくはないていた。パパも目元をおさえていた。ないていないのははやぶさ2だけだったけど……でも、きっとかれもないていたんだと思う。

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