「はやぶさ2……あの、ね」
ぼくが口を開いたら、パパもママもはやぶさ2も、みんなこっちを見たのでぼくは少しはずかしくなった。だから少しうろたえてしまったけど、ぼくはゆうきを出して言葉をつづけた。
「ぼく、発達障がいなんだ」
『……えっ? うん……』
はやぶさ2はちょっとポカンとしてた。ぼくが言いたいことを頭の中で整理してると、ママがさっしてせつめいしてくれた。
「ASD……自閉スペクトラム症の特性があるの。ショウイチさんもそうなんだけど……だから放課後等デイサービスに通っているし、学校では情緒支援級に通っているわ」
「だからぼく、他のふつうの子よりはできないことや、むずかしいことがいっぱいあるよ。でも、パパとママは、そんなぼくでいいって……ぼくは、ぼくのままでいいって言ってくれるよ」
『うん……でも、なんでそれをボクに教えてくれたの?』
「だって、フェアじゃないよ。はやぶさ2は今、言いづらいけど大事なことを教えてくれたじゃないか。そしたらぼくも、はやぶさ2に言ってないぼくのひみつを教えたほうがいいと思ったんだ」
ぼくはそう言うとはやぶさ2のそばに行って、ママの反対がわからはやぶさ2をぎゅっとだきしめた。顔をはやぶさ2におしつけているから、彼がどんな顔をしてるのかわからない。でもなんとなく、ふるえているような気がした。気がしただけだけど。
『ボクを……許してくれるの?』
「ゆるすっていうか……君が【はやぶさ】でも【はやぶさ2】でも、ぼくの友だちであることにかわりないじゃない。君がお守りをさがしてきてくれたんじゃないか」
はやぶさ2は、しばらくだまっていたけど、ぼくにだけ聞こえる声で「ありがとう」って言ったのがわかった。だからぼくは、なんだかもう、それでいいと思ったんだ。
「……やれやれ、ユキに先に言われてしまったな。『君は、君のままでいい』って」
パパの言葉で、なんとなくぼくとママははやぶさ2からはなれた。パパは手元のスマホをそうさして、何かをはやぶさ2に見せた。
『あっ……これ……』
「私も、小さいころから君のファンだったんだよ。私は初代のはやぶさが帰還した後に産まれているからね、ずっと追いかけていたのは君のことだ。
ある誕生日の前の日に、私の母……亡くなったユキのおばあちゃんが、私の誕生日ケーキに乗せるチョコプレートを作ってSNSに載せたんだ。君のチョコプレートだよ。そしたら、なんと君本人から返事をもらえてね。私はとても嬉しかったのを覚えているよ」
ぼくもパパのスマホをのぞきこんだ。そこには、はやぶさ2のチョコプレートがのったSNSのスクリーンショットが写っていた。がしつがすごく悪くて、ずっと昔のがぞうだってことがわかる。
「今考えれば、君じゃなくて、君を運用していた広報担当の人からの返信なんだろうけど……」
『いいえ……覚えていますよ。これ、ボクが返信したんです』
「……えっ?」
パパがへんな声を出したので、思わずぼくはパパの顔を見上げた。いつもは見ないような、すごくおどろいた顔をしていた。パパって、こんな顔するんだ。
『おばあさんの投稿から、息子さんを……ショウイチさん、あなたのことをすごく大事にしているのが伝わってきました。どんな子どもなんだろうって思っていたんです……大きくなりましたね!』
「じゃあ……君が、【はや2くん】……だったのか……」
『はい! よかった、やっと君に本当のことを言えた……!』
ぼくは、パパとはやぶさ2が何の話をしているのかよくわからなかった。でも、二人の間にずっとずっと前からの何かがあったことだけはわかった。そして、はやぶさ2はぼくのほうに向き直ってこう言った。
『だからボク……最初に言ったよね? 君に会いたかったんだって。
あの時の子どもが大きくなって、今はさらにその子どものユキくんがいて……ボク、本当に、君たちに会いたかったんだ……!』
気がつくと、ぼくはないていた。パパも目元をおさえていた。ないていないのははやぶさ2だけだったけど……でも、きっと彼もないていたんだと思う。
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