「あーぁ、もうすぐ夏休みが終わっちゃうなぁ」
今日は放課後等デイサービスのない日曜日。朝ごはんのチョコフレークを食べながら、ぼくは何気なくそうつぶやいた。でも、それがとても大事な意味をもっていたなんて、そのときのぼくはまだ知らなかった。
『そうだね……ユキくんとこうしてすごせるのも、あと少しになっちゃったな』
「えっ!?」
はやぶさ2のさみしそうな言葉に、ぼくはとてもびっくりした。ぼくはこのままずっとはやぶさ2といっしょにいられると思っていたから、おわかれの時がくるなんて思ってもいなかったんだ。
『あれ? ……話してなかったっけ?』
「ユキ、はやぶさ2くんが来た時にパパは話したぞ? 国際宇宙連合の衛星フレンズ企画は、今年の夏休みの間だけだって」
「えっ……だって……せっかくはやぶさ2となかよくなれたのに……」
あまりのショックに、ぼくは手にしていたスプーンをポロリと落としてなき出してしまった。はやぶさ2がいなくなる? 今までいっしょにたくさんお話しをして、いっしょにたくさん遊んで、家でもずっといっしょにすごしてきたのに?
はやぶさ2はオロオロして、ぼくのせなかをなでながらやさしく声をかけてくれた。
『ごめんね……ボクもユキくんたちとこのままずっといっしょにいたかったよ。この夏は、そのぐらいステキな時間だった。
ボクたち衛星フレンズは、国際宇宙連合でつくられたって話はしたよね? ボクたちは夏休みが終わったら、月の基地にもどらなきゃいけないんだ。こうして地球の子どもたちとふれ合ったことを、月でのお仕事にいかさなきゃいけないんだよ』
「はやぶさ2の、お仕事って……」
『うん……ボクらが君たちとふれ合ったことで、今の子どもたちがどんなことに興味があるか調べたりね。それを元に、これから宇宙でどんな研究をするか、その参考にしたりするんだって。あとは……ボクたちフレンズは空気がなくてもうごけるから、月基地の外での調査もするよ。月基地には、ボクたちの他にもそうした調査用のフレンズがいっぱいいるんだ』
「じゃあ、はやぶさ2は月にもどってもなかまがいるんだね……。そっか、そしたら……ぼくのことなんか、すぐに……」
『わすれないよ!』
急にはやぶさ2が大きな声を出したから、ぼくはビクッとした。はやぶさ2の顔はおこっているような、かなしいような顔をしていた。まるで、ずっとむねにしまっていた気持ちがあふれ出しているようだった。
『ボクが、どれだけ君たちに会いたかったと思ってるの? たくさんの人たちに応援してもらっていたけど、ボクや兄さんはずっとひとりぼっちで宇宙を旅していたんだよ? どれだけ……どれだけ、応援してくれる人にちゃんと会いたいと思ったことか!』
「はやぶさ2……」
はやぶさ2のおこった顔を見たのははじめてだった。ぼくはびっくりして、なみだが引っこんでしまった。
「そっか……ごめんね。そして、ありがと」
ぼくがそういうと、はやぶさ2はなんだかちょっとふしぎな顔をした。ちょっと考えて、それがテレているんだと気づくと、なんだかぼくもちょっとはずかしくなってしまって、テーブルの上のティッシュを手にとってこっそり顔をふいた。
はやぶさ2がいなくなる。でも、本当は何となくそんな気はしていたんだ。はやぶさ2とはずっといっしょにはいられないんじゃないかって。でも、それが急だったから、ちょっとショックを受けてしまったんだ。
「お仕事かぁ……じゃあしょうがないなぁ……」
『ユキくん……』
「はやぶさ2はがんばりやさんだもんなぁ。月にもどってからもお仕事するなんて、えらいなぁ」
ぼくのその言葉に、はやぶさ2はいっしゅんキョトンとして、そしてなんだか、ホッとしたような、へにゃっとした顔でわらった。
『そんなこと言ってもらえるなんて、思わなかった……』
ぼくらのやりとりを見ていたママが、なんだかくすっとわらっていた。
「ふふ、ある意味では……この夏休みは、はやぶさ2くんにとってもお休みの期間だったのかもね。探査機のときもずっとお仕事してたし、フレンズになってからもお仕事をしなきゃいけないんだから」
そう言ったママは、その後すこし何か考えているようだった。ぼくが手から落としてしまったスプーンをはやぶさ2がひろってくれていたので、キッチンでスプーンをあらいに行こうとしたその時にママがまた口を開いた。
「よし。どうしようかと迷ってたけど……」
なんだろうと思ってママの方を見ると、ママもこっちを見てニコッとわらった。そして、リビングのかたすみのチラシ入れの中からいちまいの紙を取り出すと、ぼくらの方に見せた。星座がならぶ夜空のイラストの真ん中に、大きく「天文台 星まつり」とかいてあるチラシだった。
「今日の夜、天文台の夜間イベントがあるのよ。移動望遠鏡が街のほうの公園に来るんですって。みんなでいきましょ!」
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