あれから、何年が経ったんだろう。あの夏休みの日々は、遠い昔のことのようにも感じるし、まるでついこの前のことのようにも思える。
そう思いながら、そのフレンズは月基地の窓から外を見ていた。変わり映えのしない、クレーターだらけの殺風景な風景。それでも昔よりいくらかテラフォーミングが進んではいるのだけど。 月の地平線越しに青い地球が見えた。初めて月に来た宇宙連合のクルーなどは、泣きそうなほど感激する風景だ。ずっと月にいるそのフレンズにとってはいつもの光景だったのだけど、その日に限っては、彼にとってもそれはとても特別なものだった。 フレンズは、胸のポケットから何かを取り出した。古びてはいるけど、絹糸で織られたその薄紫色の布は良いものであることがわかる。彼はそれをそっとにぎりしめ、ぽつりと、けれどとても嬉しそうにつぶやいた。
『兄さん、あの子がくるよ』
ちょうど同じ時間、地球では今まさに一台のロケットがカウントダウンに入っているところだった。 昔よりは小型化したロケットも、有人飛行となると万全を機してしっかりしたものを使う。ロケットの先端にある宇宙船の中には、五人のクルーが乗船していた。そのうちの一人は、今日初めて宇宙に飛び立つ日本人の若い宇宙飛行士だった。 隣に座っていた気さくなクルーが、彼に声をかけた。
「このタイミングで聞くことじゃないかもしれないが……なんとなく今聞いてみようと思ったんだ」 「なんだい? なんでも聞いてくれよ」 「君は、なぜ宇宙飛行士になろうと思ったんだい?」
そのクルーの問いかけに、青年はニカッと笑った。そして、彼が先ほどから手の中ににぎっている色あせた薄紫色のお守りを目の前に掲げて見せた。
「友達との約束を果たすためさ」
おわり
シェアして下さると心の励みになります
Tweet