
星降 ノ砂簪
1
「おや、助手君。面白い簪をつけているじゃないか」
作業の手を止めた衣琉(いる)は、若い助手がその長い髪を纏めている簪が気になったようだ。
若いとは言うが、その助手を雇っている衣琉自身もこの分野では相当に若い。何せ、杜京で博士号を取得した年齢の最年少を更新している。なんなら、助手と並んで二人ともカレッジの女生徒だと言われても信用してしまう人間の方が多いだろう。
「あら、先生でも装飾品を気にすることがあるんですね?」
「馬鹿にするなよ、これでも性染色体はXXだぞ?」
「そういうところですよ」
そう言って呆れたように笑う助手は、ひょいと自分の簪を外してみせた。髪自体はピンか何かで留めてあるらしく、それで彼女の髪が崩れることはなかった。簪はただの飾りであったらしい。助手はその簪を衣琉に手渡した。
「最近、巷で流行っているんですよ。【紅いホシ】のかんざしです」
「【紅いホシ】? ホシというと、よく軌道エレヴェエタの下に落ちてくるメテオライトの事か?」
「ええ、それを装飾品にして売り歩く簪屋がいるんです。尤も、その簪に使われてるのは、ホシの粉末を加工したやつですけど」
「へえ……」
簪を見ながら衣琉は、妙だな、と思った。ホシと呼ばれるメテオライトは、大体青っぽいか、白い色をしていることが多い。メテオライト自体は杜京では珍しくもないものだが、紅いメテオライトとなると話は別だ。
「興味深いな! 是非この簪を貸してくれないか、詳細な調査を……」
「え、イヤです」
衣琉が全て言い終わる前に助手は否定の言葉を口にした。その表情は露骨に嫌そうな顔をしていた。
「何故だ……」
「だってそう言われて先生に貸して、無事に返ってきた試しが無いんですもの。しかも今調査って言ったじゃないですか」
「ちょっと削るだけだ」
「むしろなんでそれが大丈夫だと思ったんですか。イヤですよ、結構高かったんですから」
「ふむ」
助手に断固拒否されて、衣琉はやや考え込んだ。そしてポンと手を叩くと、目を輝かせて助手に向き直った。
「では、君に同じかんざしを買ってあげよう。そうだな、私も同じものが欲しくなったので、揃いにしようじゃないか!」
「ええ……」
「ついでに君に頼みがある。その簪屋を紹介してくれないか? メテオライトの採集に同行してみたいのだ!」
衣琉の突拍子もない発案は助手の頭を抱えさせ、そして次に「まあ、いつもの事か」と諦めの境地に至り、そして毎度の如く、彼女は渋々承諾をするのであった。
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